主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

主さまは妖の頂点に立つ大物の大妖。

主さまの屋敷に人を入れることは滅多になく、また主さま自身も息吹と夫婦になるまではどんな姿をしているのか、どんな声なのか、ほとんどの者は知らなかった。

そんな主さまを目の前にして、自然体でいながらもびりびりと肌が痺れるような威圧感をずっと感じている丙たちは怯えきっていた。


「主さま、駄目。若葉は望んでないと思う」


「…何をだ?不貞は死。そして丙の不貞を止めることもできなかった親や、妻が居ることを知りながらも丙との密会を続けた情婦も死。俺はこれを曲げるつもりはない」


「まさか…まさかあなたが丙をたぶらかすなんて!どうしてそんなことを!」


「丙は疲れ切っていました!若葉さんに拒まれて、若葉さんに好きになってもらえなくて、悩んでいたんです!私は昔から丙が好きでした!この子だって授かって…私は後悔していません!」


丙の両親と幼馴染の情婦が言い争いを始めた中、銀は情婦の“若葉に拒まれた”という言葉にぴくんと耳を動かした。

若葉はほぼ無表情で、銀の着物の袖を握ったまま一言も発さない。

丙はずっと土下座をしたままで、見るも絶えない惨状は、部屋の隅に控えていた朔や雪男たちの顔をも歪ませていた。


「…もういい」


「若葉?何がもういいんだ、親はともかくお前を捨てた男とお前から丙を奪った女は処罰しなければならない。十六夜にはその権利がある。そしてお前にも」


――銀が隣に居てくれるだけでいい。

こほんと咳をした若葉は、聞いたことのない胸の異音に気付きながら、丙の前に手を突いた。

若葉の白くて細い手が視界に入るとまた丙の身体が大きく揺らぎ、若葉はとてもやわらかい声で畳についている両手に触れた。



「最初に浮気をしたのは私なの」


「………え…?」


「私がずっとぎんちゃんを好きで忘れられないまま、ひのえちゃんに嫁いだの。…ううん、嫁いだんじゃなくって、逃げたの。私…ひのえちゃんとは夫婦らしいことはなんにもしなかった。でも私…ひとつのお布団でひのえちゃんと一緒に寝るのは好きだったよ。ひのえちゃん、ごめんね、本当は私が主さまに殺されるべきなの」



若葉はそう言ったが、主さまはもちろん若葉を殺すつもりはない。

そして若葉が丙を庇うだろうということも予想していたので、わざとらしく肩を竦めると、丙の情婦の腹をちらりと横目で見て萎縮され、手で腹を庇われた。


「や、やめて下さい、この子には罪はありません…!」


沙汰が、下る