主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「朔ちゃん」


「元気になってよかった。まだしばらくはうちに居てほしい。銀、そうしてもらうからな」


「何故お前に命令されなければならないんだ?…まあ確かに俺だけでは看病できない。息吹、頼んでもいいか?」


「うん、任せて。子供たちにはうるさくしないように言っておくから。……あれ?誰か来たよ」


息吹が顔だけ出して玄関を見ると、玄関先には仁王立ちになって腕を組んでいる雪男と、深々と頭を下げて顔を上げない丙の両親と、そして…少し大きな腹を抱えた丙の情婦が立っていた。

回りには鵺や猫又といった百鬼が睨みを利かせていたり取り囲もうとしていて、彼らに威嚇の態度を見せている。

以前息吹が若葉のことで大泣きしたのを忘れていない彼らは、また息吹が泣くのではないかと心配して、目を離せば襲い掛かりそうな勢いだった。


「猫ちゃん、しゃーって言っちゃ駄目。みんな、大丈夫だから寝てて。夜には百鬼夜行に行かなきゃいけないんだから」


「息吹、泣かされそうになったらすぐ呼ぶにゃ。飛んで来るにゃ」


「ありがとう。…じゃあ中に入って下さい。奥に丙が居ますから」


「申し訳ありません…申し訳ありません…!」


――丙が不貞を働き、その果てに若葉が自殺を図り、そしてはじめて玄関先で対面を果たしたであろう情婦の存在――

丙の両親は屋敷を取り巻く殺気と不穏な空気に震えが止まらず、情婦も同じように顔を上げることができずに終始俯いていた。


「お姉ちゃん…私もちゃんと話をするから…」


「うん、無理しないでね。じゃあどうぞ」


草履を脱いで中へ上がり、軟禁状態にされていた丙の部屋へ皆で入ると、丙はやつれて半ば呆然とした表情で彼らを見回し、そしてその中に若葉の姿を見て取ると、いきなり土下座をして平伏した。

まだ肩や腕を支えてもらわないと歩けない若葉は、身体を震わせて顔を上げない丙の姿に悲しそうな表情を浮かべると、銀が肩を抱いて丙の前に座らせた。

皆が揃ったところで主さまが最後に部屋へ入って来ると、緊張はますます高まり、どんな沙汰が下るか戦々恐々の表情で頭を下げた。


「…俺の身内が不幸な目に遭った。最初から最後まで知りたいか?」


静かな主さまの口調に全員が息を呑み、主さまは隣でおろおろしている息吹の手を皆に知られないようにぎゅっと握り、再び口を開いた。