主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「銀さん、入っても大丈夫?」


部屋に籠もったまま1度も出てこない銀を心配した息吹は、恐る恐る襖を開けて声をかけた。

銀は顔を上げて笑い、息吹を手招きする。

どの位久しぶりか――ようやく銀の本来の笑顔を見た息吹はほっとして、銀の隣に腰を下ろして若葉を見つめた。



「なんとか持ち堪えたね。血も吐かなくなったし、父様のお薬が効いてるみたい。本当に良かった…」


「ああ。突然だが息吹…俺たちは夫婦になる」


「えっ!?」



思わず素っ頓狂な声を上げた息吹が両手で口元を覆って絶句すると、銀はまた心底愉快そうに肩を揺らしながら笑い、息吹のために火鉢を引き寄せた。

そして若葉に告白されたこと、若葉に告白したことを息吹に言い、みるみる瞳が潤んできた息吹の額を指で突いた。


「何故泣くんだ。俺が十六夜にどやされるじゃないか」


「だって…銀さん…ようやく元通りになれたんだね…。若葉は銀さんと一緒に居ると、わかりにくいけど嬉しそうにしてたもん。ねえ銀さん…百鬼を抜けてもいいと思うよ。主さまもきっといいって言うから」


「…その話はまだ考えていない。今は若葉が目覚めるまで何も考えたくない。…丙はどうしている?」


「うん…朔ちゃんが何か言ったみたいで、ずっと怯えてる。主さまも敢えてまだ丙と話をしてなくて…だから余計に…ね」


銀は息吹が持ってきた薬湯を受け取ると口に含み、眠っている若葉と唇を重ねた。

思わずまた声を上げそうになった息吹がまた口を覆うと、銀は口移しで若葉に薬湯を飲ませて顔を上げた。


「若葉にはまだ夫婦云々の話はしていない。だが…時間が惜しい。体調が回復したらすぐにでも夫婦になって、子をもうける。…妖と人との間に子はできにくいから苦労するだろうがな」


「そんなことないよ、主さまと私だって妖と人だけど、子供は沢山居るでしょ?銀さん、子供はね、いつだって傍に居てくれて、慰めてくれて、癒してくれるから。宝物になるよ」


「ああ…そうだな。助平の十六夜に負けないように俺も頑張るか」


「……誰が助平だ」


いつの間にか主さまが部屋の入り口に立って話を聞いていたようで、慌てた息吹は主さまに駆け寄って腕に抱き着くと、ぱしっと背中を叩いた。


「間違ってないでしょ?主さまは大助平だもん」


「…“大”をつけるな」


また銀が楽しそうにして笑った。

いつの日か動かなくなっていた耳と尻尾がまたぴょこぴょこと動き、息吹を喜ばせた。