主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

その日の百鬼夜行は…荒れていた。


目を離せばすぐに暴れたがる各地の妖を調伏するための百鬼夜行なのだが、普段は小物など目に留めずに百鬼に始末を任せる主さまは、人を襲う小鬼の集団を発見すると自ら切り込んで行って百鬼たちを驚かせていた。


「今日の主さまはどうしたんだ?」


「わからん。だが近寄らない方がいいぞ、逆に俺たちがやられてしまう」


「それは怖い。今日は息吹が居なかったが、そのせいなのか?」


「おお、そうかもしれんな。まさか実家に帰ってしまったのか?」


話に花を咲かせる百鬼たちは、無表情のままある程度力を封じた天叢雲を振るって小鬼たちを屠った主さまの怜悧な横顔を見てぞっとしていたが…

鬱蒼とした森に降りて殺気を放つ主さまの間合いに無造作に入り込んだ男が居た。


「…銀か。俺は今機嫌が悪い」


「息吹が実家に帰ったそうだな。また己の感情だけをぶつけて泣かせたのではないだろうな?」


「…あれと俺のことに口出しをするな」


「昼夜逆転の生活を送っているお前たちはすれ違い人生だ。それを承知で夫婦になったのでは?この生活を終わらせたくば子作りに励んだらどうだ」


「…!こ、子作りだと?」


「ああ、子作りだ。それも男を作れ。そうすれば百鬼夜行から解放されていつでも息吹の傍に居られるじゃないか」


尻尾と耳をぴょこぴょこ動かしながら腕を組んで笑った銀だったが、主さまは時が止まってしまったかのように固まり、拳を握りしめた。


「…俺だってそうしたい」


――本音を言えば今すぐにでも子を作って息吹の傍に居たいけれど…


「まさか拒まれているのか?」


「…“朝からいやだ”と言われた」


「ははははっ!じゃあ百鬼夜行を切り上げるしかないな。皆も納得してくれるはずだ。お前の代わりに俺が先頭に立って代行してやってもいいぞ」


銀の実力ならばそれは可能だが、先頭を譲るつもりは毛頭ない主さまは牙を剥いて銀を威嚇すると、じわりと詰め寄って鬼火を出した。


「お前には譲らない。…息吹の件は自分でどうにかする」


「拒まれたくなければもっと優しく接してやれ。“抱かれたい”と思うほどにな」


「…」


喧嘩をしてしまったとは言えなかった主さまは、またむしゃくしゃしながら空を駆け上がり、息吹が出迎えてくれない屋敷へ戻ることが憂鬱になって深いため息をついた。