病室の外で確かにママが泣いていた。

背中を壁に押し付け、唇をかみ締め天井を見つめる。

一筋の涙が頬を伝って流れた。

「ママ…?」

ママは、あわてて取り繕うように、不自然な笑顔を浮かべる。

「のんちゃん、ありがとう来てくれて」

望(のぞみ)もそれに応えて「今日学校でね~」と明るく振舞う。

家族の間で取り交わされる精一杯のやさしさ。



今まで何度繰り返してきただろう。



でも、もしかしたら、それもあと数えるほどしかないのかもしれない。





805号室に入院している姉・和(なごむ)の容態は思わしくなかった。