ジューンブライド・パンチ

「緊張、取れた?」

 わたしはヘアピースを付け替えられながら聞いた。カズミはニコニコしている。

「緊張はもうしてない。次って、あそこに移動なんだろ?」

 披露宴会場名を覚えてない。なんだっけ、わたしも忘れちゃった。

「あっちのほうが緊張するんじゃないのかなぁ。高砂みんな見るから。鼻クソほじっちゃだめだよ」

「ためしに、ほじってみるか」

「……だめ」

 お願いだから、ほじるな。

 披露宴会場入口には両家受付。わたしの作ったウエルカムボードが飾ってあった。前撮りができなかったから、ふたりのプリクラやスナップ写真で作った。ヘタだけど、額縁を粘土のフェイクスイーツで飾った。

 テーブルにゲストのネームを立てる、粘土のマカロンスタンドも作った。100個以上作ったからしばらく粘土を見たくない。

「扉が開いたら、一礼しような」

「そうだね」

 動作の確認。継続して緊張しているし、バタバタだし。動きは、一度言われたからって覚えられない。忘れちゃう。ふたりでなるべく確認しながら行こう。

 挙式の時のウエディングドレスで、ベールを外し、ヘッドピースを付け替えて、今度は披露宴会場への入場。子供の頃から大好きなゲーム、ファイナルファンタジー略してFFのメインテーマで入場だ。これも絶対使おうと思っていた。オタクかもしれないけれど、だって楽曲も素晴らしいんですもの。
 会場は、広さは充分だったけれど、なにぶん人数が多くて狭く感じた。椅子と椅子の間がとにかく狭い。ドレスがあちこち引っかかる。介添えスタッフが大変そうだった。

「やべー、なにこれ緊張……」

「でしょ?」

 わたしもガクガク震えて歯がかみ合わない。寒くもないのに歯がガツガツぶつかる。
 高砂でみんなに注目されて、呼吸が止まりそう。見ないで、みんな見ないでほしい。こんなわたしを。そんな気持ち。
 上司スピーチ、乾杯の発声があって、ケーキカットだ。

「ケーキ挿入にこの曲だったんだっけ」

「ケーキ入刀だってば」

 わざとボケて、笑いを取ろうとしているのかと思いきや、本気で間違っていたりする。

 ケーキ入刀からは、大好きなL'Arc~en~Ciel、ファーストバイトはスキマスイッチの曲を使った。ここでサプライズ。両家の両親にもファーストバイトをやってもらった。お父さんお母さんの時代に、こういうのは無かったはずだから。食べさせあいっこ。見ていてほほえましかったし、胸が熱くなった。

 歓談などのBGMは映画「アメリ」「花とアリス」のサントラ。こういうことを考えるのはとても好き。曲が足りなくなって、はやりのウエディングソングを流されるのがいやだったから。
 子供の花束贈呈は「魔女の宅急便」。そこまで来て「お色直し中座です」と言われる。

「えー! 俺なんにも食べてない!」

「わたしも!」

 本当に食べられなかった。飲み物をちょっと飲んだだけ。
 秦基博の曲に乗って退場。同じプロレス観戦好きな友達が、退場するわたしにタッチしに来てくれた。

「退場を触りに来たんだ!」

「花道!!」

 わたしは友達に手を振った。