ジューンブライド・パンチ

 結婚誓約書に署名をして、参列者が拍手の変わりに風船を飛ばして承認する、バルーンリリース。風船が屋根に引っかかったりした。引っかかるなよー!

 結婚誓約書には、「これからふたりで支え合っていくことをここに誓約します」みたいな内容が書かれてあり、それをふたりで読み上げる。マイクはあったけれど、屋外だったし、後ろのほうから「聞こえねぇぞー!」ってヤジが飛んだので、もう1度読んだ。大事なことなので2回読みましたってことで。

 誓約書文面は、カップルでいろいろ考えたりするみたい。「美味しい料理を作ります」とか「お酒を飲み過ぎません」とか。そういうの、ワクワク楽しく作れば良かったんだろうけど、なんだか誓約文を自作するのに特に興味は湧かなくて、式場の誓約書を使用した。
 誓約文として「先に死んではいけない」などと重いものしか思い付かなかったから。


 ベールアップをして、ウエディングキス。当初、カズミが嫌がったのでプログラムには無かった。でも、直前で本人が「やっぱりやる」と言い出した。

 頬にキス。すると新郎友人達が「もう1回!」とヤジ。カズミが人差し指を出し「もう1回?」とジェスチャーをし、その指を口に持っていく。

「やれー! もう1回、クチだー!」

 その声を聞いて、カズミがニヤリとした。

「もう1回だって」

 そんな楽しそうに言わないでよ。

「えー」

 というわけで、もう1回のウエディングキスは口に。やりたかっただけだろ! 恥ずかしすぎて噴水に飛び込みたかった。

 ウエディングブーケは手作りシルクフラワーだったので、ブーケトス無し。代わりに、プレゼントトスにした。中に小さいプリザブーケを入れたから、ブーケトスにもなるね。
 あとはカズミがやりたがった、ブロッコリートス。房がたくさんあることから、子孫繁栄を意味するらしい。マヨネーズも準備したのでそれも付けた。

 参列者に子供が11人と多くいて、プレゼントトスもブロッコリートスも全て子供がかっさらうという状況になった。まぁ、想定内かな。

 わたしの美しさに子供達が見とれているみたいだしねアッハハハ……嘘ですゴメンナサイ言ってみたかっただけ。

 プレゼントとブロッコリーをおもちゃにしはじめた小さい子供達。人も多いし、テンション上がっているんだろうね。仕方ないね。けがしないように遊んでください。

 新婦友人達が、カメラをかまえてこちらを見ている。目の前でニコニコしていて、わたしはそれで涙腺が決壊した。なんだよ、泣かせないでよ。

「う……おう……」

「おなつ、泣きすぎじゃない?」

 カズミが、からかってきた。

「うう、だって……うう」

 鼻水も止まらない。
 カズミは、新郎友人達とかわるがわる写真を撮って、楽しそう。
茶髪に髭、ピアス。みんなで集合して写真取ると……ヤンキーの集会か成人式に見えるんですが、目の錯覚だろうか。 

 途中、噴水ショーがあったりして、滞りなく挙式は終了した。

 会場から退場する途中、カズミが言った。

「あ! お姫様抱っこをするの、忘れた!」

 そう。実は毎晩、お姫様抱っこの練習をしていたのだ。バカげているかもしれないけれど、ふたりは真剣だったのだ。

「戻って、撮って貰うか」

「新郎新婦さま、こちらの出口です」

「あ~」

 もたもたしているあいだに、スタッフに促され、チャンスを逃してしまった。

 結局、練習の成果を発揮すること無く、挙式が終了してしまった。披露宴会場へ移動しなければならない。ブライズルームも違う場所になり、移動しながら写真とビデオ撮影。てんてこ舞いで、目がまわるようだった。

 カズミがやりたがった、ドレスでお姫様抱っこ。そしてもうひと、プリンセスラインのドレスの中に体育座りして足先だけ出す、というもの。
 なんでそんなことがやりたいのか。男心はわからない。もう、天然ぶりがひどい。