「危ない!」


は?

急にタックルをかけられて、あたしは雨で濡れた道路にスライディングした。
無防備だったせいもあり、ごろんごろんと転がる。


「いってえぇぇぇぇぇっ! 誰だコラ!?」

「大丈夫か!?」


どうにか態勢を整えて、ぶつかってきたモノに盛大に文句を言おうとした。
のだが、フリーズしてしまった。

あたしに被さるようにしたモノは、大きなイノリだった。


「怪我してないか? 考えなしに道路渡ったらダメだろーが!」

「あれ? イ、ノリ……」

「なんだよ! って、は? オマエ今俺の名前……」


あ、いや、違う。
イノリじゃなくてこれ、大澤だ。そう、大澤。

え? 大澤がいるってことは、ここは9年後ってこと?
ってことは、もしかしてあたし……


「帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!?」


大澤を押しやり、あたふたとバッグからケータイを取出し、確認。
おおおおおおおお、電波が!
電波が立っておる!

驚いた様子の大澤に視線をやり、最優先すべき確認事項である日付を訊いた。


「おい、今日の日付は!?」

「は? ええと、7月12日」

「西暦から言え!」

「2012年、だけど」


2012年!
はい、確定! 戻ってきたんだ、2012年に!
やった! 帰ってこれたんだ!


ばっ、と目の前の大澤を見る。
少し訝しげに眉間にシワを寄せていた顔には、イノリの面影がはっきりとあった。

いや、面影って、あって当たり前なんだよな。
だってこいつ、イノリなんだもん。

大澤の顔を見て、唐突に、理解した。
何故かすっきりと、イノリと大澤の間にイコールが入った。

そうだ。こいつは、あたしに意味不明なことばかり言って、勝手に不機嫌になってた大澤ではない。
あたしが数日を共にした、あのイノリなのだ。

どうして、こんなに急に、納得がいったのだか分からない。
でも、そうなのだ。
全身の感覚が、こいつはイノリだと教えるのだ。


「ち、茅ヶ崎? なんだ、急に?」

「いらん、そんな呼び方。ミャオでいい。そう呼んでいいって、約束したもんな」


言うと、イノリの目が大きく見開かれた。