「…………タイムアップ、かな」


ケータイを見て、小さく呟いた。
時刻は3時50分になろうとしていた。


あれからすぐに、下手に歩き回っても無駄かもしれない、と思って移動するのを止めた。

目指す方角も何もわからないのに歩き回るのは、やはり得策ではない。
頼りない光だけでは、どんな事故を起こすか分からない。
帰りたい一心での無謀な行為は、イノリを危険な目にあわせてしまうかもしれないのだ。


捜索が来るのを待ったほうが賢明だ。

偶然にもそこはひらけた草むらだったので、そこで救助を待つことに決めた。

イノリはあたしの膝を枕に、すうすうと心地よさそうな寝息をたてている。
その頬をそっと撫でて、ため息をついた。


もし時間通りにK駅のバス停についていたとしても、戻れたとは限らない。
無駄足になった可能性だってある。

そうだ。
それに、加賀父が言ってたじゃないか。
もし戻れなくても、必ず帰れるようにする、って。


くよくよするな、美弥緒。
きっと道はある。
うん、そうだ。


「ミャー……」


これ以上ため息をついてしまえば、気持ちが落ち込んでしまう。
ぐ、と唇を噛み締めたら、イノリが寝言をもらした。


「ねこの鳴き声、かな? それともあたしを呼ぼうとした?」


かわいらしい寝言に、ふ、と笑う。
それからもイノリはもごもごと口を動かしていたが、言葉はこぼれなかった。


まあ、この子が無事だったんだから、それだけでも十分、か。
あたしが見つけなかったら、この子はまだあそこで痛みと不安で泣いていたかもしれないんだ。
自分の足首をそっと撫でた。


「……まあ、あんたと一緒にいられる時間が増えたと思えば、いっか」


呟いて、夜空を見上げた。
と、遠くから声が聞こえた気がした。


「ん?」

「…………!! …………!!」


やっぱり声がする!
捜索隊!? いやもうなんでもいい!
とにかく声をあげて気付いてもらわなくちゃ!


「こっち! こっちーぃ!!」


気付いて! ここ! ここなんです!

できうる限り、大きな声を上げた。
あたしの声に目を覚ましたイノリも、誰かの声が聞こえると分かるや、身を絞るようにして大きな声を上げた。


「祈ー! 美弥緒ちゃーん!」

「みーちゃーん! 返事しろ! 祈ー!」


ちらちらと人工的な光が見えた。