「授業を始めます。座ってください」

 先生は、いつもと変わらない、口調で、いつもと変わらないことを言う。

 柴田も、他のクラスメイト達も、先生の言葉に、しぶしぶ席につく。

 これも、いつもと変わらない。

 でも。

 荷物を適当に詰めて、教室から出て行こうとしていたわたしは。

 その場で、動けなくなってしまった。

 相手は、村崎先生で……『紫音』ではないのに。

「守屋さんも座ってください」

 村崎先生は、真面目くさっていいながら、すれ違いざま囁いた。

「……授業中に、何かされると思うのか?
 莫迦な奴」

 ば、莫迦!?

 ……悔しい……!

 このヒトは、また、わたしのことを莫迦って!

 ……負けたくない。

 このヒトに、負けたくなんて、ない!

 わたしは、かなり乱暴に歩くと、どさっと、席に着いた。

 そんなわたしに、薄く笑うと、村崎先生は、教壇に立って言った。






「……それでは、授業を始めます」