「ねぇ、ママ…」


薄い金色のマスカットティーがほんのり香って心地いい。
疲れた時にはフレーバーティーが落ち着く。
左頬にうっすら手形をつけたしぃの前に、そっと出す。


「何?」


カップを差し出す手は丁寧にするけど、しぃに対する口調はつっけんどんになる。


「僕、本気だよ」


「何が?」


あっ、そういえばクッキーがあったっけ?


「ママは誰にも渡さない。僕だけのもの。いいね?」


「…えっ?何言ってんの?」


口をつけようとしていたカップを落っことしそうになる。
ヤバイ。また心臓が狂い出す。
今日はどれだけ心拍数が上がればいいんだろう。
これは…プロポーズ?
いやいや…、こいつ、記憶喪失だし。
さっき倒れたし。
自分を見失ってるな。
ここは本気になっちゃいけない。
下手するとこっちが傷付く。


「言葉の通りだよ。ママは僕をこの世で一番好きになる」