彼は人魚姫!

「おい!!」


薫がすごい形相でしぃに向かって来た瞬間、あたしは素早くしぃの正面に向き直り、右手でしぃの左頬を思いっきり、ひっぱたいた。
それはまさに1秒に満たない早業。
な訳ないか。
1秒はかかってる。


「ごめん。薫。こいつ、病気だから。ごめんね。連れて帰る。…あ、あの、ありがとう。考えてみる」


とにかくここは早く帰るべき。
こいつを連れて。
あたしは白々しく海に尻もちをついているしぃを引き上げると、急いで歩き出す。
女に叩かれたくらいで倒れるか?
わざとらしい。
ほんと何を考えてるのか…。


「ね、ママ、僕、上手く倒れたでしょ?」


少し後ろを歩きながら、あたしの手をぎゅっと握る。
やっぱりか…。


「何でわざと倒れたのよ?あんなオーバーに。服、濡れちゃったじゃない」


「だって、あのままだったら、ママ、すごく困る展開になってたでしょ?彼、本気で怒ってたしさ。僕は彼と違ってママを困らせる事はしたくない。だから、ここはママに叩かれて動かない方が、そのあとママが上手くやってくれるって思ったんだ」