彼は人魚姫!

「そ?じゃあ、遠慮なく…」


あたしは返そうとしたトマトをまた紙袋に戻す。
薫の言いたい事は分かってる。
『店はどうした?』って言いたいんでしょ?


「お前………」


「いいの!分かってる。薫が言いたい事は分かってる。店でしょ?ほっといていいのか?って事でしょ?はい。いいんです。いいったらいいんです。以上」


つい、口調がキツくなった。
あたし、きっと薫に八つ当たりしてる。
薫は関係ないのに。
心配してくれてるだけなのに。


「やめた。今日はもう終わり。…おい、行くぞ」


薫がいきなり立ち上がり、あたしの目の前に手を差し出す。


「え?仕事、まだ終わって…」


「いいから、来い。気分転換する」


強引にあたしの手を掴んで引っ張ると、歩き出す。
たまにめちゃくちゃ強引だよ。
だけど、そこに心がちょっとざわつく。