彼は人魚姫!




「…で、お前はここで何をしてる訳?」


「えっ?」


「えっ?じゃないだろ?さっきから何やってんだよ」


「薫の手伝いじゃない。薫、言ってたでしょ?『手伝え』って」


あたしは薫の作業場にいた。
『手伝っている』というのは確かにおかしい。
何も手伝ってない。
ただ薫の横で美味しそうなトマトを物色している。
もちろん、自分用に頂いて帰る為に…。


「その紙袋はなんだよ。そこにさっきから何を突っ込んでる?」


薫の、ただでさえ大きな、目力のある目があたしをジロリと見る。
迫力あるなぁ。


「ごめん。この赤いツヤツヤ感がたまらなく美味しそうに見えて。それにいい大きさしてるよねぇ。さすが、薫の作るトマトは最高だよ。アハハ…。…ごめん」


ここはヘラヘラと笑って、罪を認めよう。
悪気はない事くらいは分かってもらえるだろう。
せっかくいいのを選りすぐったけど、返さないとね。
売り物なんだから。


「そんな事を言ってるんじゃない。トマトくらい、いくらでもやる」