「あれ?お客さんは?どうしたの?」
店に戻ると店内には誰もいない。
もちろん、外の行列もない。
行列が無くなっていた事に全然気付いてなかった。
「ママが楽しそうにサボってるからだよ。お客さんには帰ってもらった。ママが悪いんだよ」
「えっ?帰ってもらった?」
ウソでしょ?
「お客さんを帰しちゃったの?あんなに並んでくれてたのに。なんて事するの?」
つい、カッとなってしまった。
気付けばあたしの右手はしぃの左の頬をひっぱたいていた。
すぐ人を叩くなんてサイテーだ。
叩いた後で激しく後悔する。
「ごめんね。ママ。僕、ママの事しか見てなかった。お客さんの事なんて考えてなかった」
あたしの目の高さまでかがんで顔を覗き込む。
今にも涙がこぼれ落ちそうな目をしたあたしを心配そうに。
「ごめんね。悪いのは僕だよ。叩いた事を責めないで」
男のくせに長くて綺麗な指が、あたしの涙をそっと拭う。

