彼は人魚姫!

「な、何?そんな大した事じゃないって。あいつが店長になった訳じゃないんだよ。大袈裟だよ。薫。ちょっと手伝ってもらってるだけ。あの店の店長はあたし。たまには楽したっていいじゃない?」


何を言ってるんだ?あたし。
心とは逆な事を言ってる。
何でだろ。
ほんとは不安になって来てるくせに。
強がってる。


「そっか。なら、いいんだ」


空を見上げた薫の黒い髪が、静かに風に揺れる。
熱いとこがあるけど、無理に心に踏み込まない。
それが薫。


「あ…あのね、あたし…」


「暇だろ?手伝えよ」


あたしの言葉を遮って、薫はにっこり微笑むと腕を掴んだ。
時にグイッと強く出られると拒めない。
体が薫に流れてる。


「何で、あたしが?」


「つべこべ言わずについて来い」


しっかり握ってるけど、痛くはない。
あっ、薫と手を握ったのって、いつぶり?
いやいや。
握った事ないかも。
温かい手をしてたんだ。