彼は人魚姫!

「『海乃…雫』かぁ。いい名前だ。景色が浮かぶ。…ねぇ、ママ。僕も名前が欲しい」


ほんとに、こいつには気持ち振り回される…。


「そ、そうね。確かに名前がないと不便よね。でも、名前って…」


変な名前ならいくらでも浮かぶ。
すっぽんぽん太郎とか変態ドスケベ野郎とか…。
でも、あたしが呼ぶわけでもあるし。
一時的とはいえ、人様の前で呼べない名前は良くない。
かと言って。
イケメン吉とか?
変だよね?


「ママ、変な名前、考えたりしてない?…すっぽんぽん太郎とか…」


わっ!
こいつ、あたしと同じ感性してるよ。


「ま、まさか。そんなバカみたいな名前、考えるわけないでしょ?アハハ…」


「同じ感性してるね。僕たち。…ま、お遊びはこれくらいにして。真面目に考えてよ。あ、このお店、なんて言う名前?」


お、お遊び?
落ち着け…落ち着け…。
すっぽんぽん太郎がほざいてるだけだ。


「このお店は偶然だけど、あたしと同じ名前で『しずく』っていうの。ほんとに偶然なんだけどね。あたしが最初にここに来たのは…」

「オーケー。じゃ、『しずく』から一文字取って、『しぃ』にする」


こいつ…。
あたしが気持ち良く喋ってたのに。