彼は人魚姫!


「ママ、このトマト、めっちゃ!美味しいね。甘~い」


サラダを頬張る、そいつの左の頬には赤い手形がついている。
『力、入れ過ぎた…』って、ちょっとだけ反省するけど、まぁ、まだ、まっさらなあたしの胸…いや、体に触ったんだから仕方ない。
だけど、こいつ、全然こたえてないんだよねぇ。


「パンも焼き立てみたいに柔らかくて美味しい」


『焼き立てです』って言いたい気持ちをグッと押さえる。
まだ口をきいてやりたくない。
ほんとに、こいつ、どうしてくれよう。


「いい匂い…。この特有の香り、綺麗なオレンジ色…。ダージリンだね」


「えっ?」


男のくせに紅茶の種類が分かるの?


「紅茶が分かるの?」


「うん。なんか分かった。好きだよ。ね、この色…。優しい色だね」


なんて優しい目で紅茶を見るんだろう。
もしかして、紅茶を作ってた?
いや、日本でそれはないか。
あっ、カフェのマスター?
あたしと同業者だったりして。
いやいや、この容姿。
輸入業者でどっかの青年実業家とか…。
そうだ。きっと、そう。
で、買い付けに海外に行った帰りに乗ってた船が遭難したのよ!
で、すっぽんぽんで海岸に打ち上げられた…。
って、あたし…、妄想し過ぎ。