彼は人魚姫!

「連れて行こうと思ったわよ」


いや、思わなかったな。
なんでだろ?



「…行こうと思ったんだけど、あいつがお腹空いたって言うから。つい、可哀想になっちゃって。ほら、悪そうに見えないし。なんか記憶喪失みたいだし。このまま警察ってのも…ねぇ。すぐ記憶が戻るかもしれないし。そしたら自分で帰れるでしょ?」


「お前はどこまでお人好しなんだ?あいつは男だぞ。しかもあんな…。コホン。いつ襲って来てもおかしくない格好だろ」


だよね?
普通、その心配するよね。
でも、何故か、その心配は全くなかった。
逆に、安心して歩けた。


「大丈夫。きっとすぐに何か思い出すって。あいつの家族も探してるだろうし。…はい。どうぞ」


淹れたばかりの紅茶の甘い香りが店内に漂う。
マーガリンたっぷりのトーストと、採れたて野菜のサラダを薫の前に出す。
これで少しは機嫌もなおる。
お腹が空いてると人ってイライラするもんね。