そっとドアを開けて家の中に入る。
ほんのりと紅茶の甘い香りがする。
しぃはどこに行ったんだろ。
まさかここに帰って来るはずないし。
朝になったらひょっこり現れるんだろうけど。
今夜は久しぶりの一人か……。
「お帰り!」
「えっ!?」
鍵をかけた途端に背後から声をかけられ、心臓が飛び出るほど驚いた。
うちは防犯会社と契約してない!
あぁ、やっぱりレスリングのあの選手の会社に頼んでおくべきだった。
あのCM大好きなのに。
「遅いよぉ。心配したんだから。ママって可愛いから、誰かに持ってかれたんじゃないかって」
いきなり抱きついて、胸を掴む強さ、手のひらの大きさ、そう、あいつだ。
「しぃ!びっくりしたでしょ!なんでここにいるのよ!」
驚きが怒りに変わってる。
ほんとは飛びつきたいくせに。
「なんでって、ここは僕の家でしょ?」
「そ…うだけど。でも。……ちょっと、いい加減このいやらしい手を離しなさい」

