彼は人魚姫!

「あいつって。しぃの事?」


「他にいないだろ」


「いないけど。いるわけないでしょ」


妙に焦る自分に、また焦る。
薫には何も分からないはず。
『どうなんだ?』と、無言で鋭く見つめて来る。


「……好き。振り回されっぱなしだけど。たぶん、心の中はしぃが占領してる。友達に戻れないのは、しぃなの。今の関係が崩れたら、二度と会えない人。でも、薫となら、しばらくしたらまた友達に戻れそうなの。それって、やっぱり恋愛感情じゃなくて……」


「もういいよ。最後まで聞いてられるほど、強くはない。雫のことは、さ」


くるっと後ろを向いてしまった。
うなだれた背中が辛い。
ほんとに素敵な男の人なのに。
あたしにはもったいない人なのに。
どうしてこんな目に合わせてしまうんだろう。


「ほんとにごめんなさい」


もう一度、頭を下げた。
これしか出来ない。
涙が溢れて来て、地面にポタリと落ちた。
断るのも、結構、辛い。