彼は人魚姫!



~間で~


「薫」


仕事から戻って来る薫を待っていた。
太陽が空をオレンジに染めて行くのを、こんなに見つめたのは初めてだろう。
綺麗だと思う余裕はなかった。
ただただ、闇が来るのが怖かった。
薫が帰って来る。
待ってるくせに、会いたくない。


「よぉ。待っててくれたのか?可愛いやつだな」


大きな黒目がちの目があたしを見つけると、目尻を下げて優しく笑った。
ガレージに車を停めると、嬉しそうに近付いて来る。
あたしはこれから残酷な事を言わなくてはならない。
この笑顔を壊してしまうんだ。
最低なオンナ。
消えてなくなりたいほどに嫌な気持ち。


「散らかってるけど、入れよ」


「あ、あのさ、話があって」


薫の顔がフッと光を消したように曇った。


「夜空を見ながら雫と話すのも悪くないな」


あたしは精一杯の笑顔を作った。
もう薫は分かってる。