彼は人魚姫!

「わ…かりました。もう一度、考えてみます」


それしか言えない。よね。
『じゃ、』と、用事は全部済んだように立ち去ろうとするオーナー。
あたしの心の奥の何かがドンッ!っと突き上がる。


「あ、あの、」


何も言えないのに、口が勝手に何か言おうとする。
何を言おうとしているのか自分でも分からない。
立ち止まり、振り返るオーナーに何を言うの?



「あの、人魚姫は幸せだったと思いますか?」


あたしは何を言い出すのか。
フッと柔らかい笑みがオーナーの口元からこぼれた。



「人魚姫かぁ。そうだね。本当の事を隠してるのは辛かったと思うよ。そして最後は好きな人を守った。悲しい結末だけど、そこまで人を愛せるのってすごい。やっぱり、好きな人には幸せになって欲しい。例え、自分の気持ちを犠牲にしたとしても。好きな人がそれで幸せになるのなら、それは犠牲じゃなくなる。人魚姫は幸せだったと思うよ」


そう言って後ろに歩きかけたと思ったら、急にこちらを向いて来た。
目が、真剣にあたしを見てる。