彼は人魚姫!

冷たい風が頬を撫で、波の音は遠く彼方に聞こえる。
あたしは今まで、しぃの何を見て来たんだろう。


「そうだったんですか」


それ以上は言葉にならない。
改めて自分の置かれた立場にめまいがする。


「全ては雫さん、あなたにかかってしまった。勝手に巻き込んで申し訳ない。ごめんね」


最後の『ごめんね』はダメでしょ?
そんなに優しく可愛く言われたら、また気持ちが持って行かれてしまう。


「いえ、謝らないで下さい。オーナーは全然悪くないですから」


そう、悪くない。
ううん。少しだけ悪い。
これでオーナーとあたしはどこにも進めない。
オーナーはしぃの元へ、あたしの背中を押してる。
優しく、ゆっくりと。
そっちの道を選んだ。
そして、あたしにも『そっちを選べ』って。
そう思ってるんだよね?


「ほんと、人魚姫みたい。あたしとの恋が実らなかったら、しぃの夢は泡になっちゃう。写真、撮りたいんですよね?しぃは全部、私に賭けてるんですよね?」


それはしぃのお父さんと、しぃに利用されてるって事?
この疑問がまだ消えない。