彼は人魚姫!

真っ直ぐにこちらを見る目にウソは感じられない。


「ほんと……なんですか?」


黙って微笑みながら頷く。
あたしの中のしぃのイメージが一変して行く。


「あの日、風の乗った車が雫さんに泥を跳ねた日、母親が家を出て行ったんだ。風がいない時に。あいつはお母さんっ子だったから、それを知って慌てて車で追いかけた。あの時も運転手が気付いて停めようとしたのを行かせたらしい。気が焦ってたんだと思う。ほんと申し訳ない。でも、その時に見た雫さんを忘れられなくなってしまった」


「お母さんとは会えたんですか?」


オーナーは黙って首を横に振った。


「そうですか」


そんないきさつがあったなんて。
あたしの知らないところで色んな事が起きてたんだ。
当たり前と言えば当たり前なんだけど。


「風に好きな人がいる事は父にも知られてしまって。父は逆にそれを利用したんだ。今回の件で父は『本当に風を愛してくれている人を連れて来い』って言ったんだ。それは雫さんの事。風が一目惚れしてずっと一途に愛しているその人を見つけ出して風の事を愛してくれたのなら、その人と一緒になって好きに生きて行けばいいと。所詮、無理だと思っての話だった」