「あのさ、まだ時間があるはずだろ?僕は帰らない」


「でも、このまま居ても仕方ないんじゃない?風のここまでして、家を継ぎたくないっていう気持ちはよく分かったわ。どうしたらいいのか一緒に考えましょうよ。ね、とにかく一度帰りましょう」


秋穂は一刻も早く、しぃをここから連れて帰りたいらしい。
また、しぃの腕を掴んで、ドアの方へと軽く引っ張っている。


「やめてくれ。これは僕の問題だ。それに。この僕の問題を解決してくれるのはママしかいない。僕が選んだのはママだ。秋穂じゃない」


「何を言ってるの?ねぇ、ちょっと……はっきり言うけど、たぶん、片思いよ。彼女の好きな人は風じゃない」


秋穂はしぃに向かってそう言ったあと、あたしを射抜くように見て、ゆっくりその視線をオーナーに向けた。
視線を追いかけていたあたしの目は、そこでオーナーの視線と重なった。
まさか、ずっと、こっちを見てた?
いやいやいや、自惚れほど恐ろしいものはない。
現実を見失ってしまう。


「ママは僕を愛してるよ。凪の事よりも」