彼は人魚姫!

逃げようとしたあたしの左手は、しぃに強く掴まれた。


「待てって。話がある」


「あたしは話す事なんてない!」


ううん、ほんとは説明して欲しい。
分かるように、誤解だよって。
なのに体は全てを拒絶する。
涙だけが止まらない。


「説明する!ここでママに逃げられる訳にはいかないんだ」


『嫌だ!』と言いつつ、どこかで『あともう一回、言ってくれたら…』とイヤらしい期待をする自分が情けない。
ねぇ、しぃ、全部ウソなの?
一緒に過ごした時間はバカげた作り物?
違うよね?さっきの話はあたしの事じゃない。
他の誰か。
違う。そうじゃなくて。
バカになればいいの?
何も聞いてない。何もおかしくない。携帯は拾ったもの。
そう思えばいい?
でも、無理。無理だって



「いいから聞けって!」


強く引っ張られた瞬間、あたしの右手が反射的にしぃの左頬を叩いた。
何かを叩いたのは、中学校のバレーボールの授業以来かもししれない。