突き飛ばされた刹那は、少しよろめきながら体制を立て直した。
頬を赤く染め、震える吐息をかろうじてしている遥を見て、また柔らかな笑みを見せた。
「かわいいですね、貴女は」
「かわっ…! ふざけた事言うな!」
ロッカーを叩きながら言うと、キンコンっとバックルームの呼び出し音が鳴った。
[ゴメン二人とも~! 二人じゃ手に負えないから助けて~]
カウンターから泣きのガイナンスが流れ、刹那は上着を脱いでユニフォームを着る。
「早く行かないと。仕事しなくちゃね?」
ウインクを残し、刹那はカウンターへと足を運んだ。
それを見送った遥は、ロッカーに凭れながらズルズルとしゃがみ込んだ。
「あれが、魅惑(チャーム)ってやつかよ……」
男も女も関係なく見惚れる、高位の妖が持つ術。
自分が自分でなくなるという、甘く不思議な感覚が、まだ体中を駆け巡っている。
「こ、勾陳…」
小さな光りがフワリと肩に乗ると、それは人の形へと姿を変えた。

