俺も気づいてないだけで持っているのかもしれない。



「ばかじゃねぇの?
俺、急いでるから」



俺は司の発言を鼻で笑い、わざと司の体にぶつかり、下駄箱へと急いだ。


耳に残る、沙紀と司の言葉。
《離して…》
《堂々とキスしたら、お前はなにも言わない?》


なぜ生まれてきたの?
見上げた空に問いかけるが当然のように返事はなかった。


変われそうだったのに。
お前と出会って、なにかが動き出した気がした。けど今の俺には、壁が多すぎる。



履き慣らした靴を履いて、走って家に向かう。



俺は、変わりたい。


変わらなきゃ。
誰かに頼りにされるくらい、でかい人間になりたい…。



家に着き、靴を脱ぎ捨ててある部屋に向かう。



「歩さん、お帰りなさいませ」



家政婦にいちいち返事をしている余裕なんかない。


俺は急ぐ。
秘書室へと。



「富田!!」



部屋のドアを開けて、世話係の富田がいるか確認をする。


富田は資料を片手に、パソコンを操っていた。


「歩さんじゃないですか。迎えに行きますと言ったのに、お一人で帰って来られたんですね」



驚いた表情をひとつも見せずに、黒渕のメガネをくいっと上げた。


俺は富田に近づき、真剣な瞳を彼に見せる。



俺は変わりたいんだ。



「富田に頼みがある。
携帯を買ってくれ!!」



誰でも変われるよ。
俺はお前に無理矢理した意地悪なキスから変わり始めたんだ。