母には、友人も知人もいなかったので、ひっそりと、ほとんど家族だけで、小さなお別れの儀式は済んだ。
それは、本当に寂しいものだった。
母の死を嘆き悲しんだ人間が、あの数人の中に、いったい何人いたのであろうか。
私には、参列者の表情にはどこか晴々しい気持ちが浮かんでいる様な気がしてならなかった。
私は本当に最後の最後の瞬間まで、
『こんな風になってしまっては、駄目だ』
という兄の言葉を繰り返していた。
葬儀を終えた兄は、どこかスッキリとした表情を見せ、すでに今後の自分の幸福について考えている様子で、私に「いい人」を紹介してくれた。
兄のいい人は、どこか上品ぶった顔付きが母によく似ていて、私はやはり、ゾッとした。
私は……
私の生活は、母を失ってもほとんど何も変わらなかった。
元々が、私の人生の中で、親としての母の存在は薄い。
田舎から東京に戻れば、私には、仕事まみれの以前と変わらない生活が待っていた。
私には、仕事がある。
母とは違う人生を歩んでいる。
毎日が慌ただしく、私は会社から必要とされ、社会からも必要とされているのだ。

