………



「歩太はもう、ここには戻って来ないのに」



彼女に投げ掛けられた僕の言葉は、全くもって自分自身が意識していない言葉であった。


『歩太は戻って来ない?』


嘘だ。

そんな事は、歩太本人にしかわからない。


………


……沈黙。

その間で、彼女は強いとも弱いとも言えない視線で僕を見詰めていた。

迂闊な僕の言葉が、いつまでも余韻を含んで漂っている。


ゆっくりと、野中七海は小さな口を開いた。
僕にはそれが、スローモーションにすら見えた。


「そうかもしれないわね。でも、それは」


そう言って彼女は、一呼吸置く。


「アユニには、関係のない事だわ」


………


しまった、と思った。
けれどももう、遅かった。


野中七海の瞳が潤んでいる。
そこに僕は、静かだけれど強い彼女の怒りを感じた。

彼女を傷付けてしまった。

傷付けた、と言うよりは、やっぱり怒らせてしまったのかもしれない。


『関係のない事だわ』

そう言った彼女の声は、震えるほどに強かった。