孤高の魚




いつの間にか僕は、野中七海の存在に頼りきってしまっている自分に気が付く。

彼女の強さはいつでも揺るぎなく、どこか凛としていて痛いくらいに真っ直ぐだ。

見ているだけで、彼女のその強さに巻き込まれる。


………


「……楽しみだわ」


洗い上がった食器を丁寧に拭きながら、彼女はそう呟いたけれど。
その呟きはきっと、尚子や僕とは全くもって無関係なものだ。

彼女の「楽しみ」は、工藤さんを通して知る歩太とのこれからの事なのだろう。

あのブルーのノートが、少しづつ文字で埋まっていく事。
彼女と歩太の居場所が、確実に出来上がっていく事。
彼女はいつも、そこにだけ向かっている。