渡された書類とパソコンを交互に見ながら、指をキーボードの上にのせる。

頭のずっと後ろの方で、あの人の声だけが異様に響いて聞こえる。

指が動かない。動かしてみるけど、頭が働かない。


…先輩の、ことは。


”平松、これ先日話してた書類。今日中にいける?”


べつに。別に好きなわけじゃない。

ただちょっと、前から、ていうか初めから、声がいいなぁって。そんくらいだし。

顔も、まぁ?カッコイイなーとか思ってたけど、それだけだし。

背も高いけど、ちょうどあたしより20センチも高いけど、別に?あたしは低い人も嫌いじゃないし。

昨日は、会社の飲みで。あたしは明らかに、飲みすぎちゃって。

その勢いで…寝ちゃう、とかも…なんていうかほら、一夜のアヤマチ?みたいな?そーゆーの、大人ならあるんだろうし。

お互い気持ちよかったなら別に問題ないし。全然、問題ないし。


「課長!コピー終わりましたぁ」
「ああ、机に置いといて」
「新平さん、外部からお電話きてますー!!」
「ピッチに通して!」
「八木ぃーはやくー」
「待ってください、今こっち手ぇ離せないっす!」