空には大きな月が浮かんでいた。

それをぼんやりと見ながらサクのことばかりを考えてる。


「……ノラ……ノラ!」

車が行き交う大通り。街灯の明かりに照らされて誰かが向こうから走ってくる。


「……ハア……ノラって足速いんだね」

現れたのはもちろんサク。

息を切らせて私を追ってきたらしい。


「今はひとりにして。色々と考えたいの」

そんな大人びたセリフを自分が言う日がくるなんて想像してなかった。すると、私の頭に軽い痛みが。


あの優しいサクが私の頭を叩いた……?


「道も知らないし、スマホも持ってないのになに言ってんの?」

サクの口調はいつもどおりだけど、その顔はなんだか怒ってるっぽい。


「……べつに平気だし、子どもじゃないんだから」

「ノラは子どもだよ」

カチッと私の怒りスイッチが押された音がした。


たしかに私は子どもだよ。

だからサクに甘えて生きてるんだよ。

でも私だって、私だって……。


「私だって子どもだけど色々考えてるし!これからのこととか自分のこととかサクのこととか」

どうしよう止まらない。

こんなこと言いたいわけじゃないのに。


「一緒に住んでるけどサクは私の特別じゃないし、サクも私が特別じゃないでしょ?」

「………」

「だからサクはなにも聞いてこないし詮索もしない。私だってそうだったんだよ?でも今はなにかが違う」

「………」

「サクは私のなんなの?私はサクのなんなの?友達なの?ペットなの?それとも他人なの?」

もう、やだ。こんなことを言う女は絶対にうざいし、サクも呆れてるかも。

もし家を出てけって言われたら考えなくちゃ。
大丈夫、もう働いてるしなんとかなる。