なんだかこのままだと、どんどんサクのペースに飲まれていく気がする。べつにイヤなわけじゃないけど。


「♪♪~」

スーパーを出てその帰り道。サクはまた上機嫌に鼻唄を歌いはじめた。

透き通るような綺麗な声。

サクは本当に歌が好きなんだね。それは趣味?それともプロを目指してたりするのかな。


「……亮?」

私たちの背後で声が聞こえた。

その声にすぐさま反応したのはサクだった。


「やっぱり亮だよな?こんな所でなにしてんだよ?」

サクを亮(りょう)と呼ぶ人は、少し怖そうな男の人。


髪の毛は金髪だし、ピアスの穴はたくさん開いてるし、格好はロック系だし。

サクの知り合いなのかな?全然雰囲気が違うけど。


「……鉄……」

サクがポツリと呟いた。

その顔はどこか動揺していて、私には〝逃げたい〟って顔に見えた。


「お前帰ってきてたのか。なんで言ってくれねーんだよ」

鉄(てつ)と呼ばれたその人はゆっくりとサクに近づいてきた。そしてシルバーのアクセサリーをつけた手でサクの肩に触れた。


「……ごめん。いつかは顔出さなきゃって思ってたんだけど」

なんだかサクがサクじゃない。

この人となにかあったんだろうか。


「まあ、いいよ。元気ならさ。ずっと心配してたから安心した」

鉄って人は見た目は怖そうだけど、悪い人ではなさそう。だってサクを見る目が優しいもん。