「ノラは歌が好き?」

突然サクがそんなことを聞いてきた。

歌?そんなの考えたことないけど、きっと私は……。


「……嫌い。だって思い出すから」

「思い出すって?」

「………」

私は喉まで出かかった言葉を飲みこんだ。

歌自体が嫌いなんじゃない。ただ歌って記憶と同じだから。

あの時流れてた歌とか、あの人と聞いてた曲とか。きっとまたメロディーと一緒に思い出してしまうから。


「それなら俺の歌は好きになってよ。……なんてね」

サクがどこまで冗談でどこまで本気なのか分からないけど、私は迷わずに返事をした。


「好きだよ。サクの歌は」

「え……?」

「また聞きたいって思ったもん」

むしろ今すぐにでもあのメロディーの中に溺れたい。ふわふわと心が浮いて心地よいサクの歌声はまるで子守唄のように落ち着く。

なんて、そこまでサクに言うことはできないけど、好きだと言ったのは本心だよ。

サクはそのあと、私の髪を優しく撫でた。


「ありがとう、ノラ」


なんでお礼を言うの?私の方こそまだ言えてないのに。

でも、サクが少し泣きそうな顔をしたのは気のせいだったのかな?