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私は駅に向かって切符を買った。電車に乗るのも随分と久しぶりだ。

駅は人で溢れていて、ここに来た時もこんな風に人混みに埋もれていたっけ。

あの時は無我夢中で行くあてもなかった。この街に来たのだって偶然で意味もない。でも家を飛び出してこの街に来て、サクに出逢ったのは本当に奇跡だった。

そこは神様に感謝しないといけないね。


駅のホームに電車が到着するアナウンスが流れて、私の前に大きな風が吹き抜けた。プシューッという音と共に私は電車に足を踏み入れる。

ありがとうとサクに出逢わせてくれた街にも別れを告げた。


暖房が付いている車内で、私は隅っこの席に腰を下ろした。ゆっくりと電車が進むと、窓から見える景色も流れていく。

そして、私は静かにサクがくれた手紙をポケットから出した。


〝ノラへ〟

鉛筆で書かれた文字を見つめながら紙を開くと、ポタポタと涙が溢れてきた。

脳内に流れてるのはあの曲。


――〝これはね、ノラに会った日に思い浮かんだ曲だから〟

それはサクがよく口ずさんでいた歌詞のないメロディー。