暫くして、尚さんはゆっくりと立ち上がった。


「もう俺はなにも言わない。もし今日でなにかが変わったなら今度はお前から会いに来い」

そう言い残して、サクの前から去って行った。

そして、ずっとなにも言わずに見ていた鉄さんはやっとサクの近くに歩み寄る。


「……亮。言いたいことは全部尚に言われちまった。だから俺もなにも言うことはないけどひとつだけ」

「………」

「サンセットで待ってる」

鉄さんの5年間の想い。多分このひと言に全部詰まっている気がした。


「麻耶ちゃん、俺も先に戻るから。仕事の途中だしさ」

「……鉄さん」

「あとのことは宜しくな」

鉄さんはそう私に言って、サンセットへと戻って行った。


公園ではサクと私のふたりきり。

なんて言葉をかけてあげたらいい?

泣きながら座り込むサクを見てずっと考えていた。

サクと私が過ごした時間なんてとても短くて儚い。だからこそ言ってあげたい言葉、してあげたいことがある。


「サク」

私は地面に膝をついてサクの体を強く抱き締めた。

本当はずっとこうしたかった。弱いサクを強く強く抱き締めてあげたかったの。