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時間は進みその日の夜。サクが珍しく家で作曲をしていた。


「……♪♪」

近所迷惑だからギターは弾かず自分の鼻唄で。


「珍しいね。いい曲でも浮かんできたの?」

お風呂上がりの私は布団にうつ伏せになり、紙とにらめっこしているサクに話しかけた。


「ん?全然。むしろなにも浮かんでこない」

「……?」

サクは諦めたかのように布団に寝そべった。


「浮かんでこないって今歌ってたじゃん」

いつもなら鼻唄と一緒に楽譜を完成させてしまうのに、今日は白紙のまま。


「曲じゃなくて歌詞。ほら、この前弾いてた曲だよ」


ああ、あの女子高生に話しかけられた時に弾いてた歌詞のない曲ね。


「そうなの?いつもはなにも考えずスラスラ書いてるのに」

「うーん。でもなんか浮かんでこないんだよね。この曲自体は気に入ってるんだけど」

ふーん。サクがひとつの曲にこんなに熱心になってるのなんて初めて見たかも。


「気に入ってるから書けないんじゃない?逆に気に入らなきゃ書けるかもよ?」

私がそう言うとサクがクスクスと笑いはじめた。


「面白いこと言うね。本当にそうしてみようかな」

面白いって……私はけっこう真面目に言ったんだけどな。絶対いま私のことバカだと思ったよね。