例えば人間にリセットボタンが付いてたとして、それを押さずに人生の終わりを迎える人はどれくらいいるんだろう?

正直、私にはムリ。

だってもし今リセットボタンがあったなら、

私は迷わず押してるから。


「ねえ、こんな時間にひとりで何してんのー?」

新かさい駅、中央ターミナル、夜の9時。

金髪にズボンを引きずるほどの腰パン。明らかにチャラそうなふたり組が私の行く手を遮る。その声に目も合わさず私は無言で横を通りすぎた。


「カラオケ行こうよ。俺らがおごるし」

それでもしつこく付いてくる男たち。

少しはや歩きをして、まるで私には見えていないような素振りでシカトし続けた。


「……ち、なんだよ。感じわりーな」

背後で苛立ち混じりの舌打ちが聞こえたけど、私は歩く足を止めない。


ざわざわとうるさい雑音。もう夜なのに辺りは街灯や飲食店の明かりで眩しくて夜空に浮かぶ月が負けている。

「90分1200円飲み放題いかがですか~」
「新装開店記念のティッシュです。どうぞ」
「お兄さん、うちで休憩しませんか?」

キャバクラの勧誘に酔っぱらいのサラリーマン。それぞれがそれぞれの夜を過ごし街に溶けこんでいる。


私はこんなに急ぎ足でどこに向かっているんだろう?

行く場所なんてないけど、ただ何も考えず無心でいたかった。カバンもスマホもお金も、大切にしていたものは全て置いてきた。

心もなにもかも私は空っぽだ。