雑賀孫市重初<仮>





「だけどな、秀実よ。俺の『ヤタガラス』が疼いて仕様がないんだよ」



重初は快感を覚えた動物のように不適に笑う。



こうなってしまった重初を引き戻せないことを秀実は知っていた。





「俺のヤタガラスが囁くんだ。『ハヤク、ハヤク』ってな」




「重初様、されど…──」





───私は貴方が心配でなりませぬ。





この言葉を秀実はとっさに呑み込む。


今の彼には何を言ったって、その耳には届かないのだから。




重初があの火縄銃に魅了されているのは重々承知している。



『ヤタガラス』と名乗る火縄銃は南蛮より伝来した初期の型で、戦力随一の鉄砲集団であった『雑賀衆』でさえもあれを操ることは出来ない。




我々が使い易いように改良されたものに比べるとヤタガラスは重く、そして長い。



あの鉄の塊を自由自在にできるところが天よりの申し子とでも言うべきなのかもしれない。







重初は常日頃よりヤタガラスを利き手側、つまり右肩に担ぐ。

支える腕には生まれたときから付いていた痣がある。




つまりは初代もそうであったように、選ばれし者、八咫烏を持つ者だけがヤタガラスを扱えるのだろう。




もっとも、『ヤタガラス』自身が選定しているのかもしれないが。