──それから十数年余りの年月を費やす。
美祢の乳母であった長井は静かに息を引き取っていた。
そして重初の乳母は雪那という女によって育てられていた。
「重初様、あまり遠くへ行かれますと皆が心配します!どうか、お戻り下さいませ!」
重初の後ろ姿に泣きそうになりながらもそう訴えるのは、彼の乳飲み子である秀実(ひでさね)だ。
秀実は雑賀一族直系の重初に一番近い分家筋で、信長の時代に生きた重秀の次男の子孫である。
今も雑賀一族に仕えているのは、この次男が長男を敬愛していたがゆえだと書簡には記してある。
雑賀一族の家臣となることで、重秀と長男に忠誠を誓ったとされている。
「あー、五月蝿いのが付いて来たな…。俺はただ狩りに行って来るだけだっていつも言っているだろ」
自慢の火縄銃を肩に担ぎ、重初は振り返らずにそう告げる。
「銃声は敵に居場所を教えるようなものですよ!」
「だから森の奥に行ってるんだよ。ちゃんと俺だって考えているんだからな」
「しかし重初様。関ヶ原での戦に破れて早十数年ですが、未だに徳川の魔の手は雑賀一族を襲おうとしております」
「……ああ、そうだな」
それには考えることがあるのか、重初の声は低くなった。
しかし、歩める速度は緩めることはなかった。


