「これは……」
一目見て、感じるものがある。
歴代の雑賀孫市は『それ』を背負い、戦場へと躍り出たという。
事実、彼の父である重朝はその陣羽織を羽織って火縄銃を操っていた。
これはまさしく……───
「『八咫烏』」
赤子の右腕についた痣は雑賀一族の家紋でもある八咫烏の姿形によく似ていた。
「まさか、この子は先祖より選ばれた使者なのでは?」
乳母の驚きを隠せない声に誰も異を唱える者はいなかった。
誰しもがこの痣を八咫烏だと考えていたからだ。
──敗を喫した我々だが、仏は見放さないという思し召しか?
この赤子が家康によって絶たれようとしている雑賀一族を復興してくれるのではないか。
乳母はしばらく考えた後、皆を見渡してこう伝えた。
「この方は亡き重朝様と美祢の子。そして雑賀一族を背負う御方。大事に育てるのが、我々の仕事だからね」
この言葉に先ほどの女中を含めた者全員が頷き合った。
────
──────
数日後、美祢の部屋から手紙が見つかる。
そこには赤子の名前と由来が綴ってあった。
──重初
雑賀当主より続く『重』に初。
『あなたが、雑賀一族にとってかけがえのない存在になりますように』
雑賀孫市重初───
彼こそが、天より遣わされた使者。
八咫烏を腕に乗せた者である。


