「わたくしは平気です。だから、……行って?」
「……」
このがさつな足音は豊臣家の家臣たちだ。
千姫を迎えに否、捕えにきたに違いない。
「桔平、……行って?」
「必ず……必ずっ!お迎えに上がりまする!」
突風が吹き、次の瞬間には桔平の姿はなかった。
彼が祖父の所へ向かったのだと千は安堵したような微笑みを漏らす。
「千姫様っ!何処へ行かれておりましたかっ……!」
千のもとに数人の家臣が駆けつけ、彼女の周りを囲んだ。
「早くお戻りくださいませ!」
この家臣の焦りようから、義母の淀が相当怒り狂っているのだろうと想像がつく。
「わかっております」
───ねぇ、桔平。
「姫!早くっ…!」
家臣は乱暴に千の腕を掴む。
「痛っ…!」
──ねぇ、桔平。
あなたは迎えに来るって言うけれど、わたくしはわかっております。
「早くお戻りくださいませ!」
手を引かれ、目指すのは義母の待つ大坂城。
家臣に囲まれて連れていかれる千は、先ほど去って行った重初の方向を見る。
──重初様が願うことも、わたくしの願う『自由』も、どちらも叶うことは無いのですよ。


