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「この辺でいいか?」
「はい。ありがとうございました」
城下に入ったところで重初は歩みを止めた。
後ろをついて来ていた千はその数歩先で立ち止まり、振り返って礼を述べたのだ。
「ここまで来れば、無事に帰ることができましょう」
「そうだな。今度は蝶なんか追うより、どっかの殿様を追った方がいいんじゃないか?」
「……そうですね」
重初は冗談のつもりで笑って言ったが、千は曖昧に笑うだけだった。
しかし、そんな彼女の些細な表情に全く気付かない重初は頭を掻き乱して言う。
「そろそろ行くわ、俺」
「……はい。お気をつけて」
「じゃあな」
重初は踵を返し、左手をひらひらさせながらまた森の中へ入って行った。
その後ろ姿を淋しそうに口をつぐむ千の後ろに、華やかな城下には対極するほど似つかわしくない黒装束の男が風のように現れた。
「姫様……」
その声は彼女を案じているようにも聞こえる。
黒装束の男の思いを汲み取った千はそっと瞳を閉じる。
「わかってます。お義母さまの罰は受けますし、お祖父さまへの報告もします」


