「わ、わたくしは…」
千はそう言って口許を袖で隠す。
「何だよ、言えねぇのか」
「ち、違います、重初様!実は……、み、道に迷ってしまって…」
「はあ?道?」
どこかの姫さんに違いない女が道に迷った?
……やっぱ、俺を騙そうとしてんじゃねぇか。
「ほぉ…。そら、何でだよ?」
怪しい奴はとことん問い詰めるのが良い。
事実でないならば、どこかにボロが出て、話の矛盾が生じるはずだからだ。
「えっと……。蝶を追ってましたらいつの間にか……」
妙に歯切れが悪く、若干頬を染めている。
まあ、確かに恥ずべき事だろうな。
年齢的にも俺と同じかひとつ大きいか…。大人びた容姿だってその理由を許さない気がする。
「……その蝶は、見つかったか?」
重初が訊くと千は俯いて首を左右に振った。
「いいえ、見失ってしまいました」
しょんぼりとうなだれている姿はどうも嘘を言っているようには見えなかった。
少しずつ女に対する疑いの結び目が解けていく。
それは自分にとっては戸惑いの気持ちが大きかった。
今さっき会ったばかりの女に心を許すなど、あってはならないからだ。
美しい女ほど一族を滅ぼす力を持つ。
惚れた当主は女に言い様にされ、そいつは一族の財を喰い尽くす。
そうやって、女は力を支配する男に近寄るのだ。


