雑賀孫市重初<仮>





───だが
と考えて、重初は自分が今召しているものに視線を向けた。




そう、それは彼の着る陣羽織──



八咫烏の家紋が入った陣羽織だ。




もしこの女が他の家の家紋に精通していれば、すぐにわかってしまうのではないか。





重初は慎重に千を窺いながら見つめた。



この女、さっきからにこにこしていて意図がわからぬ。

ますます怪しい。




さらに彼が怪訝そうに千を睨みつけると、彼女はたじろいで視線を泳がせながら瞬きを繰り返した。



その姿がますます気に入らない重初は口を開いた。





「あんた、そんなに愛想振りまいてて疲れないのかよ」




綺麗に笑ってはいるが、あれが作り笑いなのはすぐにわかった。




「あんたは確かに美人だが、全員が全員あんたの偽りの顔に惚れると思うなよ。そこまで誤魔化されるほど俺は腐っちゃいねぇ」





その笑顔に男の誰もが気を緩めたのだろう。

しかし重初の場合は眼飛ばされたので、どう反応して良いかわからずあたふたしてしまったに違いない。







こんな女に何とも小さく見られたものだな、俺は。






我ながら、飽きれてしまう話だ。





「……で、あんたは何しにここに来たんだよ」





ここでも最大限の警戒をしておくに越したことはない。

くの一という可能性だってある。





……まあ大概、くの一はこんな見え透いた格好でうろうろしないだろうし、もっと色仕掛けで攻めてくるはずだ。



だが新手の作戦であったり、この女は新米のくの一であったりするかもしれない…。

──可能性としては低いが。