雑賀孫市重初<仮>





優しそうな声が漏れたと思ったら、女は体勢を崩して後ろに倒れこもうとしていた。



急に袖を持っていかれて身体の自由を奪われてしまったからだ。





「………っと!」





しかしここは重初がそれを受けとめる。


ふわりと女の重みを感じると、それに遅れて彼女の香が重初を包み込んだ。



高貴な、それでいてどこか幼さを垣間見せるような香り。





「おい、平気か」




慣れない香りに戸惑いながらそう言って女の顔を窺った。






「……あ、はい」




女は重初を見上げた。





「………っ!」





その視線が絡み合ったとき、重初に何とも言えない感情が沸き起こった。






美しい…──




一族の中にも女はいる。
雪那だってそのひとりだし、彼女は自分を本当の子のように育ててくれた、まさに母のようで、美しく、気高い。



そんな雪那とは異なる美しさを彼女は持っていた。





「あの、貴方は…?」





温和な言葉遣いに心が洗われたように温かな気持ちになる。


余程良い教育を受けていたと思われる。






「──だが、名を聞くときは自分から名乗るのが筋ってもんじゃないのかい」




「あっ……」





彼女の作法もしっかり整っているみたいだ。


女は重初から一歩退くと、その場に正座してから三つ指を立てて頭を下げる。