夏の月夜と狐のいろ。




森の入り口まで来ると、ノエルは少し立ち止まり
寂しそうな声で言った。


「姿は見せてくれないの?」


シアンはぱさりとしっぽをゆらす。
それはきっと、いけないと思った。


「うん。だめよ。お父様に怒られちゃう。」


するとノエルは残念そうにため息をつき、
ポケットに手をつっこむと何かを取り出した。


ここからでは、よく見えない。


「これ、君にあげるよ。また来ていいかな」


ノエルがそういうのに対し
シアンはすぐに頷いてしまった。


「うん!」


単純に、嬉しくて、楽しかった。


外の世界を知らなかったシアンは
今日はじめて外の世界をみて、さらに人間と話をしたのだ。



シアンが嬉しそうにこたえると、
ノエルもまた、嬉しそうに微笑んで手を振った。


「ありがとう。じゃあね、シアン」


「うん、またね!またきてね!」



そう言ってシアンは草陰からそうっと顔をのぞかせて
ノエルが遠ざかっていくのを見送った。


心はうきうきと高鳴って、銀色のしっぽはずっと揺れっぱなしだ。




ノエルが行ってしまったあと、草陰からはいでてみると、
そこには不思議なたべものと、かわいい花の髪飾りが置いてあった。