夏の月夜と狐のいろ。




シアンはぎゅっとこぶしをにぎりしめ
図書室の扉にむかった。


すると、後ろからばかにしたような声がひびく。


「おいおい、助けに行こうとでもしてるのか?
あんな見せ物の商品を助けてどうするつもりだ?」



―見せ物の商品!!



シアンはその言葉にかっとして振り向いた。


「友だちがいるの!!!見せ物なんかじゃない!
みんな生きてるの!死にたくないの!!」


シアンのしっぽがぶわりと膨らみ
影のようにゆらゆら揺れる。


いっそ、ラシッドの喉をかききってやろうかと思った。




けれどラシッドは表情をくずさずに
ゆっくりとシアンに近づいてきた。



「じゃあ、ちょうどいい。
この窓からも知識をえられるじゃないか。


お前はここで、本を読み、そして窓をみつめ
死の概念と恐怖、悲しみ、憎しみを学べ。」



シアンの体が、怒りで震えた。